creature2018@仮設

長い18世紀のイギリス

映画『ナポレオン』行ってきました

こちらのエントリは映画『ナポレオン』の感想のふりをした自分語りです。前半は概略程度のほんのりネタバレあり、後半はしっかりネタバレありの構成です。ネタバレせずに語れるほどの表現力の持ち合わせがないものですから。

当日のコンディション

  • 映画館での鑑賞は数年ぶり
  • 洋画はいつも字幕で観る派
  • 今回はドルビーシネマでの鑑賞(初ドルビーシネマ)
  • ナポレオンについての背景知識
    • 半島戦争についてはチョットダケ知ってる。それ以外はほぼノータッチで、かなり前に『公爵と皇帝』と『戦場の素顔』を一度読んだ程度
    • 小説だとかろうじてホーンブロワーとシャープシリーズを一通り、漫画は覇道進撃を少し読んでいる
    • そこで事前にウィキペディア等で映画のあらすじと登場人物を把握
  • 主たる関心は英国関連の場面、特にワーテルローの戦い

ナポレオニック英国陸軍にチョットダケ触れてる人です。でも『マスター・アンド・コマンダー』等は見ておらず、映像作品は今回が初めて。

ほんのりネタバレあり語り

全編駆け足になるだろうことは折り込み済みで観に行きました。それでも予想を上回る飛ばしぶりであり、語るべきことが山盛りの人物の半生を映画化する困難さを感じました。と同時に、およそ2時間30分という長尺ながら中弛みを感じることもありませんでした。

映画公開前に、たまたまEsdaile先生のSNS投稿旗代@HatashirorzさんのSNS投稿を見ていました。そのお陰で「監督による単なるひとつのイメージだと思おう。あるいは大河ドラマみたいなもの」という心構えで観に行き、「なるほどそういう解釈なんですね。ではでは」と帰途につけました。

そういうわけで、本作の感想を一言で述べるなら「大河ドラマナポレオン ~愛(?)と戦いの果てに~(総集編)」です。

上映方式について。これまではよくIMAXで観ていましたが、ドルビーシネマもいいらしいと小耳にはさんで今回はそちらへ。噂の「今見ているこの色は実は黒ではありません、これが本当の黒」を生で体験しました。映画本編でもその高精細な映像を楽しめたと思います。これまで感じていた、画面の暗い部分に映っているものがよく見えないというちょっとしたストレスが、今回はなかったからです。ありがとうドルビーシネマ。

しっかりネタバレあり語り

⚠️ここから先は鑑賞済みの方向けの内容です。また、私の鑑賞目的である英国関係への語りが主です。

英国関連

振り返ると、やはり途中から集中力が切れていたなと反省。最初は衣装も注目していたのですが、後半はすっかり忘れてしまっていて。最後の方の英国陸軍ズの出番もろくに覚えていないのが無念。「この方陣の中にショー大尉がいるつもり」とか「騎兵部隊への伝令役としてキャンベル少佐が走っているつもり」とかよそ事を考えている場合ではありませんでした。集中力の配分を完全に誤ってしまいました。久々の映画館なのでそんなものかな……。

ワーテルローの戦いの場面で覚えているのは、戦闘開始前のウェリントン公の「指揮官同士は撃ち合いなどしない。狙撃したらお前は死刑」の台詞1。また、伝令が馬2頭を駆りながら馬から馬へとひらりと乗り移るのがお見事でした。方陣への陣形移動が真上から映っているところも、エキストラの皆さん練習したんだろうなぁと(もしCGだったとしてもそれはそれですごい)。そう、本作でもう一度見たい場面を選ぶとすれば、私の場合は方陣への変形です。2

本作のワーテルローの戦いでは、ウェリントン公がほぼ一ヶ所に留まって指揮しているかのような描写でした。あちこち駆け回って神出鬼没なウェリントン公を見たかったです、勝手な欲としては。ウーグモンでの攻防も全然なく、あっさり描写でした。色々省略されるだろうと想定していたとはいえ、重要拠点が言及もされず映りもしなかったのは驚きました。大砲撃って、行進して、突撃して(方陣強くて)、ブリュッヒャー元帥たちが到着して、なんか終わり。最後の戦闘場面だからそれまでとは一味違うんじゃないかという期待は虚しかった。時間の都合でしょうし、きっと監督の主眼は別のところにあったのでしょう。作戦や戦闘の流れの描写という点では、最初のトゥーロン攻囲戦が私には一番面白かったです。グロくもありましたけど。

それから、ワーテルローの戦いの後の、HMS Bellerophonでウェリントン公とナポレオンが対面する場面。映画公開前にこのスチルを見た時は、これはウェリントン公の幻を相手にしたナポレオンの妄想オチでは? と思っていました。実際は普通の会話場面でした。史実では起こらなかった二人の直接会話を物語で実現してみる、というのは歴史劇としては一応ありじゃないかと。ナポレオンが朝食を食べながら「英国海軍が強い訳がわかった」という風に述べたのは称賛なのか嫌味なのか。長期航海で食材が悪くなるためにごはん美味しくないイメージがあるのですが、停泊中だったから大丈夫ということかな。それとも普通に「こんな不味い食事でも戦えるなんてすごいな」という嫌味かな。

海軍といえば、自分のツボにハマった台詞がありました。執政時代のナポレオンの英国への罵倒、というか負け惜しみ。「ちょっと小舟を持っているくらいで偉そうにするな」みたいな。記憶はかなりあやふやですが、確か小舟にあたる部分は原語ではboatと言っていました。もちろん英国の軍艦がボートなわけがなく、台詞の語気も相まって、声を殺して笑いました(左右の席が空いていてよかったです)。その「ボート」に勝てないことになる。

ついでに映画の公式サイトの話も。Introductionのところに、本作で登場する6つの戦いの名が示されている地図があります。それらほど目立ちませんが、イベリア半島の方にちゃんと "Wellington's Army"と書かれています。わかっていらっしゃる……。

フランス関連

Wikipediaで登場人物を見ておいたものの大陸軍の将官で識別できたのはダヴー元帥とデュマ将軍と(たぶん)ネイ元帥。名前が出てきたのはジュノー将軍くらいでは。

SNS上で、場面が断片的であるとか人物の掘り下げが甘いといった評を見ました。私は、もはやそういうスタイルなのだろうと思って見ていました、前述の通り元帥たちですらあの扱いですし。あくまで作中のナポレオンを中心に、ナポレオンにとって実に都合のよい視点で進んでいく……そう思えば、背景説明が少いのはナポレオンにとって自明だったり知らなかったりするからだし、マリー・ルイーズの存在が希薄なのは後継ぎが欲しかっただけだからだろうし、ワーテルローの戦いの扱いがちょっと軽めなのは敗戦という直視したくない現実だからなのかなと解釈可能。「自分の運命はもはや自分の意志を超えてしまっている」というようなナポレオンの台詞もそれを示していると思います。泥臭い積み重ねとか物事の丁寧なつながりではなくて、神(史実)の都合で話が進んでいくから観客はおとなしく従うように、みたいな。そういうメタさ(?)と同時に、本作の主人公像を示してもいると思います。これは格好つけて言い訳しているだけですよね。自分の力及ばずなんかごめん、と自らの限界や至らなさを認め、謝る選択肢もあるのに、そんなこと思いつきもしない。権力は持っているけれど人間としては弱い。そういう核というか一貫性がしっかりとあるから、後半のブツ切り出来事の連続も雰囲気を壊していなくて、「そういうもの」と思えたのです(パラグラフ先頭の話題に戻る)。

それから、100日天下の際、討伐軍がナポレオンに寝返る場面。ナポレオンのカリスマ性に主眼を置いていない本作では、何故そうなるのかはまったくの謎です。史実だから、という以外の理由が思いつきません。チョロすぎて笑えました。

あ、インティマシーコーディネーターがいるのかどうかスタッフロールで確認するのを忘れました。いてほしい。

本作の評判や史実との違い

普段私が覗いているナポレオニック分野の研究者さんたちの間では非難轟々の模様。3こうした酷評には映画公開前の監督のインタビューも影響しているのでしょう。😇

私はというと、知識の中途半端さゆえにあまり歴史要素の粗が見えることがなく、特にひどいとは思いませんでした。事前に情報を得ていたことも一因かもしれません。そういう物語を創りたかったなら、こういう表現になっても別に変じゃないなと。「そういう物語」の内容は特に好みではありませんでしたが、解釈違いは世の常なので、前述の通り「なるほどそういう解釈なんですね。ではでは」と思いながら劇場を後にしました。よくわからないけど呑まれてしまう鑑賞体験でした。体力が尽きて虚無。

もしも英雄譚や歴史劇のつもりで観に行っていれば、失望か混乱していたでしょう。あれは宣伝の仕方がよくない……。

鑑賞後に、史実との違いについてWhite博士による解説Ridley Scott’s Napoleon Movie: The Real History & Historical Accuracy | HistoryExtraを読みました。創作はそれとして見て、史実は史実として押さえておきたいからです。アウステルリッツの戦いに関する本作の描き方は当時のナポレオンによるプロパガンダそのままであり実際はそもそも大きな湖自体なかった(養殖池はいくつかあった)とか、予習し足りなかったところを補えました。4

まとめ

「せっかく日本でナポレオニック関連作品を映画館で観られる機会なのだから、行っておこう!」という目的を無事達成できて満足です。他の方の感想もたくさん拝見できて楽しいです。流行りのジャンルってこういう賑やかな感じなんですね。お祭りみたい。

それから、ドルビーシネマもよかったです。700円足した甲斐がありました。ありがとうドルビーシネマ。


  1. しかし前述の通り、ワーテルローの戦いが映る頃にはほぼ集中力を切らしていたため、ライフルにスコープが付いていた(らしい)にも気づかない始末。
  2. SPOILER WARNING: Dr. Zack White Rips Apart the Napoleon MovieでWhite先生が「絶句した」って言ってた。見る目がなくてすみませんでした。塹壕とか気づかなかった。
  3. たとえばWhite博士のSNS投稿とそれへのリプライとか。
  4. メモ: Napoleon Series Reviews: 1805 Austerlitz