creature2018@仮設

長い18世紀のイギリス

『エリザベス女王の事件簿』(2)関連メモ

【ネタバレあり】このエントリではS・J・ベネット著『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬』の核心に一部触れています。

ヒーロー

女王の秘書官補ロージー・オショーディがバッキンガム宮殿の地下を探索していた場面。

「で、どうしてそんな長靴なんかを?〔略〕」クレメンツはロージーのゴム長靴〔ウェリントン・ブーツ〕を眼で示しながら言った。
「パーティーの衣装を部分的に試してみているとこなんです」ロージーはふてぶてしく答えた。それしか思いつかなかったのだ。十二月に王室職員のパーティーが予定されていて、その際には仮装をするのが恒例となっている。今年のテーマは“ヒーロー”だった。「今年はウェリントン公爵の仮装をするつもりなので」(391頁)

とてもナイスなハッタリ。

そして王室職員のクリスマス・パーティー当日は、

〔略〕ロージーも舞踏室に向かった。同じ方向を目指す、何人ものウェリントン公爵やネルソン提督やアイアンマンやワンダーウーマンに交じって。(554頁)

「ヒーロー」がテーマの仮装パーティーでウェリントン公の仮装をする人が複数いる、という状況に反応せずにはいられなかった。しかしウェリントン公の仮装とは具体的にどのような特徴を出すものなのか、二角帽+軍服+ウェリントンブーツ……? いや三角コーンを被るという手もある、という連想で思い出したのが昨年2022年のハロウィーン。グラスゴーのウェリントン公爵騎馬像の仮装が、細部まで作り込まれていてすごかった(cf. Col@Col_Gla, 29 Oct 2022)。

トラベラーズ・クラブ

事件の裏付け捜査について女王に報告がなされる場面で。

「間違いなく〔犯人〕のしわざなの?」
「はい、陛下。〔犯人〕の携帯電話の最後の着信履歴は〈ザ・トラヴェラーズ・クラブ〉(訳注:ポールモールにある、一八一九年創立の会員制クラブ。旅行好きな紳士の社交の場とされ、外交官、公務員、軍人の会員が多い。ベッドルームが十六部屋あり、電話が備え付けられている)の固定電話からのもので〔略〕」(536頁)

トラベラーズ・クラブといえば、たしかエリザベス・ピトケアン夫人の遺言状(TNA, PROB 11/2000/289)で見た名前。彼女はクラブの入っていた建物とその土地の所有者で、それらを甥オーガスタス・キャンベルへ遺贈している。なるほどそういうクラブだったのかと、とっかかりができたので調べてみた。

  • The Travellers' Club
    • とりあえずクラブの公式ウェブサイトWikipedia、それからBritish History Onlineを参考に
    • 創立: 1819年5月(現存する最古の Pall Mall にあるクラブ)
    • 創立時の入会条件: ブリテン島の外へ、ロンドンから直線距離にして500マイル以上旅行したことのあるジェントルマン。
    • 著名なメンバー: カースルレー卿、ウェリントン公、タレーラン公、等。
    • 1824年のクラブのメンバー一覧: The Travellers, 1824, Google Books. (さすがにウィリアム・キャンベルの名前はなかったものの、ナポレオニック英国陸軍の将官クラスの名前は大体見つかる)
    • クラブハウスの変遷
      • 12, Waterloo Place (1819 - 1822)
      • 49, Pall Mall (1822 - 1832)
      • 106, Pall Mall (1832 - current)

トラベラーズ・クラブは思い込んでいたよりもずいぶん格式高かった。『エリザベス女王の事件簿』シリーズは訳注が充実していてありがたい。