creature2018@仮設

長い18世紀のイギリス

フィクションにおけるキャンベル艦長

商業作品に登場するジョン・キャンベル艦長についての感想等。作品が公開された順。

1901年の小説 Quiberon Touch

七年戦争におけるキブロン湾の海戦を主題にした歴史小説 Cyrus Townsend Brady, The Quiberon Touch; a Romance of the Days When “The Great Lord Hawke” Was King of the Sea, Internet Archive、その登場人物の一人としてキャンベル艦長が登場。

この小説の中でのキャンベル艦長は、

  • 水兵がするみたいに大砲に寄りかかりながらハードタックをもぐもぐしたり (345)
  • 戦闘中は熱狂のあまり我を失いかけつつ驚異的な操艦を見せたり (347)
  • 「そろそろやつらにうちの鉛の味を教えてやったりしませんか」などとホーク提督にお伺いを立ててみたり (352)
  • ホーク提督が他艦の帆走ぶりを褒めるとそれに軽い嫉妬を表したり (354)
  • アンソン卿に対してああ言えばこう言ったり (382-3)

している。「良くも悪くも叩き上げ、つまり有能だがちょっと武骨」みたいなキャラクタ造形。実際の史料から受ける印象はバーサーカー系ではなくむしろ自制的で冷静な指揮官ではあるものの、本作での血の気多めの部下キャンベル艦長と冷静な上官ホーク提督というコンビはそれはそれで面白い。

それからナイト受爵を断ったという有名な(でも実話かどうかは定かではない)やり取りは外せないらしく:

As Campbell rode to the King's palace with Anson, the first Lord of the Admiralty, the latter remarked to him that the King would probably knight him.
"An' wherefore should I be a knight? I'll hae none o' it," remarked the Scotsman decisively, "'tis no for me―"
"But think of the advantage, captain."
"What advantage, my Lord?"
"Have you not a wife, man?"
"Ay, an' a braw one."
"If you are knighted she will be 'My Lady Campbell,' then."
"An' if the woman would be 'My Lady Campbell,' let the King knight her, if he will, an' no me," responded the stout sailor. (382-3)

実際の史料よりも膨らませてあり、アンソン卿の仄めかし内容が明確に。

2000年のTVドラマ Longitude

2000年お正月(?)放送のTVドラマ LongitudeIMDb)。18世紀の時計技師ジョン・ハリソンと、その功績を20世紀に再評価する道を開いたルパート・グールドの2人が主人公の歴史ドラマ。ハリソン親子に協力する人物の一人としてキャンベル青年/艦長が登場。

物語前半のキャンベル青年とハリソンの出会い自体は創作ながら、キャンベル青年の語る台詞は史料に基づいていて、史実と虚構の織り混ぜ方が絶妙。後半のキャンベル艦長も、ふてぶてしさの中にある優しさが素敵(階段を上る老ハリソンを脇で支える一瞬の場面が好きです)。そして前後半で共通するのは、率直で遠慮のない物言い。こんなナイスガイが主人公を助けてくれるなんて都合がよすぎるんじゃないだろうか?→史実準拠です

しかも海軍描写も充実。艦長室の戦闘部署化あり、食事あり、鞭打ちあり、さらに軽い海戦まであり。陸者のハリソン父子に説明する形をとっているため、現代の視聴者にもわかりやすい。ビル・ナイ演じる海軍大臣のサンドウィッチ卿もいいキャラしている。ジョージ三世も躍動。

惜しむらくは正規の視聴方法が限られているところ。日本のアマゾンプライムやその他動画配信サービスでも公開されるとよいのですが。

ちなみにドラマの原案となった書籍は邦訳(『経度への挑戦』)も出版されておりAmazonで好意的なレビューも多い、とはいえ原文の具体的数字を省略するような翻訳や少なくない誤訳が見られる。そのため時代背景のおさらいにはハリソンの時計作りに関する絵本『海時計職人ジョン・ハリソン―船旅を変えたひとりの男の物語』)か日本語ウィキペディア記事(ジョン・ハリソン (時計職人))がおすすめ。ドラマの雰囲気は、登場人物の一覧を掲載しているウェブページ(Longitude | Movie Dude's Pictorial Filmography of Screen Actors)や、ストックフォトサービスの画像(shutterstock)がわかりやすいかと。後者のリンク先画像中央にいるのがウィリアム・ハリソン、その右手にボケて写っているのがキャンベル艦長。

2001年の小説 The Eaglet at the Battle of Minorca

七年戦争を題材にした歴史小説三部作の第一作 John Mariner, The Eaglet at the Battle of Minorca, Google Books。主人公は諜報任務に従事する英国海軍のポスト・キャプテン。その報告先の一人がホーク提督であることから、またまた旗艦艦長としてキャンベル艦長が登場。ファーストネームも経歴も触れられていないため別人の可能性は完全に排除できないものの、ジョン・キャンベル艦長のはず。主人公が海尉だった時に初めて上官だった人という設定。

この作品でのキャンベル艦長は、

  • 舷側での見送りの場面で、主人公に「成功を祈る(大意)」と耳打ちしたり (96)
  • 万力みたいな握手をしておいて「この頃運動不足で体が鈍っていかん(大意)」と苦笑いしたり (96-7)
  • 主人公に椅子で寛ぐよう言ったり (160)

している。「(ニヤッ)鍛え方が足りんな」や「(フッ)若いのには負けんぞ」などではなく苦笑いしての自省。本人が至って真面目なところが素敵。

続編の二作品はオンライン上のプレビュー不可。そのためキャンベル艦長が登場しているかどうかは不明。

2001年の小説 River Thieves(2023-10-11追記)

18世紀末のニューファンドランドを舞台にした歴史小説 Michael Crummey, River Thieves, Google Books で、同地の提督として名前のみ登場。フランス人の漁業を妨げる行為が禁止されていることに基づいて出された布告――フランスの統治する領域からすべての英国人の立ち退きを命ずる布告の影響が描かれている。その布告を海軍士官が読み上げると、作業員たちが住居から荷物を運び出し、あらかた空になった家に海兵隊員が薪を運び込んで、燃やす場面。

ニューファンドランド総督としてのキャンベル提督は、カトリックを含む信教の自由を保障したことが開明的だと評価されているけれど、住民にとってはいいところばかりではなかったのだろうと。

まとめ+α

狂戦士なキャンベル艦長、素直に優しいキャンベル艦長、ふてぶてしいキャンベル艦長……色々な描写があって楽しく、また小説のみならず映像作品でも見ることができて嬉しい驚きです。史実としてそこに居合わせていることと、魅力的な人物像が相俟って登場作品の幅を広げているように思います。海でも陸でもどんと来い。

それから、今回の調べものをしていた際に見つけたウェブページへのリンクを: Books Timeline | Historic Naval Fiction(作中舞台の年代別に帆船小説を並べた表で、シリーズ名も併記)
日本語圏の帆船小説案内ですとこちらとか: 帆桁亭

Longitude が配信等で手軽に視聴可能となる日が来ることを願いつつ、おしまい。